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熱源 [本]

川越宗一著

内容紹介:樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。

樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作

川越宗一(1978-) 大阪府生まれ。龍谷大学文学部史学科中退。バンド活動を経て会社員として勤めるかたわら、2018年「天地に燦たり」で松本清張賞を受賞してデビュー

史実を元にしたフィクション。人間の営みの壮大な物語。元になっているという金田一京助著「あいぬ物語」は、樺太アイヌである山辺安之助の半生記で、山辺の口述をアイヌ語研究者の金田一京助が筆記したもの。確かに、本著でも南極探検から生還したヤヨマネクフが自ら金田一京助氏に依頼して書いてもらう、とあります。「あいぬ物語」も機会があれば読みたい。

冒頭と結びは1945年8月のサハリン。実際のストーリーは、明治維新期まで遡り、主人公ヤヨマネクフたちの幼少期、そして日清、日露戦争がある。同時にヨーロッパではポーランドがロシアによって支配されていた1880年代、こちらの主人公はブロニスワフ・ピウスツキ。彼はサハリンの少数民族ギリヤークの言葉や習慣を研究することから、のちにアイヌの人々とも交流していくことになる。ポーランド人でありロシア人でありギリヤーク人の友人であり、さらにアイヌの妻を持つ、という彼こそは人種という枠を軽々と乗り越える人なのです。

現代でもなお少数民族に対する大国の支配が横行し、弾圧や紛争があること、多くの弱い人々が苦しんでいることを改めて考えなくては。しかし、そうした人類の問題だけが本著のテーマではないのでは、と思います。実は、登場人物それぞれが個性豊かで面白い。例えば金田一京助や白瀬矗、アイヌの頭領バフンケやイペカラ、早くに疫病で死んでしまったヤヨマネクフの妻キサラスイ。「ヤヨマネクフの息子はどうなったかなぁ」と途中でふっつりと消えてしまった人も気になります。
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